今日も僕と担任の二人きりだった。
「こないだ中田にも話を聞いてみたが・・・」
先生は僕を見ていた。でも、僕の目は見ていなかった。
「なにを聞いても、あいつはなにも話さなかった」
つまり、太陽は僕の命令通りにしたということだ。
「だから、改めて安達に話を聞こうと思ったんだ」
先生も困っている、という感じだ。いや、困ってるというのとは少し違う気がする。
「安達と中田は喧嘩はしていなかった。それは間違いないんだな?」
先生は確認した。
「はい。喧嘩はしてません」
僕はそうはっきりと答えた。
「だったら・・・」
先生は、あの紙、太陽がびっしりと書いたあの紙を僕の前に置いた。
「この話はこれで終わりだ。なにもなかったんだからな」
その紙を机の上を滑らせて僕の前に動かす。
「中田にもそう伝えてくれ」
(なんで僕が)
そう思って先生の顔を見た。一瞬目が合った。先生は視線を外した。
「先生・・・先生も、太陽は」
その先は聞けなかった。先生も、太陽はヤバいって気が付いたんですね、とは言えなかった。
「それから、西崎先生から直接聞いたんだけど、あいつ、退部届を出したって」
僕が言い掛けたことに被せるようにして言った。西崎先生というのは、野球部の顧問の先生だ。
「へぇ、そうなんですか」
「あんまり驚かないんだな」
僕にはそれが当たり前のように思えた。だって・・・
「あいつにしてみれば、部活してたら、お前に、その・・・」
先生は言いよどむ。
「虐められる時間がないから、とかですか?」
少し間を置いて、先生がうなずいた。
「お前はそれでいいのか?」
「いい訳ないですよ」
「そうだよな」
腹が立った。太陽に対して、じゃない。結局先生は、学校は何もしない。あんな事実を知りながら、何もしないんだ。喧嘩はなかった。だから何もなかった。以上、終わりってことにして、あとはみんな忘れるんだろう。
「いいですよね、先生は。なにもなかったからこれで終わりって出来るんだから」
先生は何も言わなかった。
「結局僕等のことなんて気にしないんだ。自分達の手に負えないことはなかったことにして、自分で伝えることもしないんだ」
「それは」
先生が何か言い掛けて口を噤んだ。
「なんですか、ちゃんと言ってくださいよ」
先生が僕を睨んだ。でも、少しも怖くない。太陽に比べれば、少しも。
「中田の話は中田個人の問題だ。学校が首を突っ込むような問題じゃない」
確かにこれは太陽の問題だ。いや、そもそも何が問題なんだったっけ? 僕等が校舎の屋上で喧嘩をしていた、という話が問題だったんだ。それを太陽は爆弾を持ち込んで、そんなことは粉々に吹き飛ばして、太陽のセックスの問題に置き換えたんだ。
それって、先生や学校に文句を言えることじゃない。先生だって困ってる。先生だって逃げ出したいだろうし、出来れば聞かなかったことにしたいんだろう。
その気持ちは良く分かる。
だけど、学校なら、少しは僕を助けてくれるんじゃないかっていう気持ちもあったんだ。
太陽があんなこと書くからこうなったんだ。悪いのは太陽だ。先生じゃない。学校でもない。
僕も、先生も、学校も、太陽の爆弾の被害者なんだ。
「分かりました」
僕は立ち上がる。
「太陽には伝えておきます」
座ったままの先生に向かって言った。
「その代わり、これからどうなっても僕は知りませんから」
先生は座ったまま動かなかった。

「ふうん」
放課後、教室で僕を待っていた太陽にその話をした。
「命令、守ったって分かっただろ」
太陽の興味はそれだけのようだ。
「うん」
太陽が笑顔になって僕の手を掴んだ。
「じゃ、トイレ行こ」
「待てって、学校でするのかよ」
そのまま腕を取られて強引にトイレに連れ込まれた。二人で個室に入る。
「ほら、ご褒美」
僕の耳元で太陽が言う。太陽にとっては、先生がどう思っているかだとか、周りにどう思われてるかなんて関係ないんだ。そして、僕もそれは理解したんだ。
つまり、僕は約束を守るしかないんだ。
「じゃあ、全部脱げよ」
いつものように太陽はなんの躊躇もなく全裸になって、僕の前にしゃがむ。
「ほら、早く」
まるで犬がちんちんしているみたいに両手を肩の高さに上げて、手首を曲げて僕を見上げる。
「犬みたい」
僕はつぶやいた。
「そうだよ、俺は諒君の犬だよ」
そのまま口を開ける。
(仕方ないか)
ここで約束を破ったら、太陽は何をするか分からない。そういう恐ろしさが太陽にはある。
僕はゆっくりと手を股間のところに当てる。太陽は期待に満ちた目で僕の手を見ている。太陽のちんこは勃起しかけている。僕はチャックを下ろす。
「早く」
太陽が急かす。
「待て、だよ。犬のくせに」
ゆっくりとちんこを出した。太陽が僕を見上げている。その顔を見る。いつもの太陽の顔に見えた。僕の奴隷の太陽なのに。
「ホントに欲しいの?」
太陽がうなずく。
「じゃあ、くださいって言えよ」
「俺に、諒君のおしっこください」
ちんちんの姿勢のまま言った。
「変態が・・・分かったよ」
でも、太陽は動かない。
「ん?」
僕は少し首を傾げた。
「俺は犬だから」
太陽が言った。
(そういうことか)
僕は僕の犬に声を掛けた。
「よしっ」
太陽が僕のちんこにむしゃぶりついた。そして僕を見上げた。
「ホントにいいんだな?」
太陽がちんこを咥えたままうなずく。
「じゃあ、出すぞ」
僕は放尿を始めた。

太陽の喉が動く。少し口の端から垂れる。それが顎から首を伝って太陽の体を流れ落ちる。それでも太陽は平気で僕のちんこを咥えておしっこを飲んでいる。
(人のおしっこなんて)
なんで平気で飲めるのか、僕には分からない。でも、太陽は飲んでいる。流石に美味しそうな顔はしていない。きっと不味いんだろう、おしっこなんだし。
やがて、僕はおしっこをほとんど出し終えた。出なくなると、太陽がまた僕を見上げた。
「もう終わり?」
そして僕に尋ねる。
「うん」
太陽は口の周りを腕で拭い、大きく息を吐く。
「ありがとうございました」
僕の前で、トイレの床に土下座する。
「よく平気で飲めるな、変態」
太陽を少しなじるように言った。
「諒君の奴隷だから」
太陽が立ち上がる。ちんこが勃起していた。
「ほら、おしっこ飲ませてもらったから勃っちゃった」
それを握る。
「僕のおしっこでしこるな」
すると、太陽の顔が輝いた。
「それ、いいかも」
僕のちんこを軽く摘まんで自分のちんこに向けた。
「もう出ない?」
僕はおしっこを絞り出した。それが太陽のちんこの辺りを濡らす。
「諒君のおしっこ」
太陽はそれを手で自分の体に塗り広げ、その手でちんこを扱き始めた。
「ほら、諒君、見て。気持ちいいよ」
僕を見て、少し口を開いてちんこを扱く。
「ああ、諒君のおしっこ・・・」
「変態」
僕は太陽を見ながら言う。
「もっと言って」
「変態太陽のくせに」
「ああ、諒君」
本当に気持ち良さそうだ。
「もっと虐めて」
太陽の金玉を握ってやろうかと思った。でも、そこも僕のおしっこで濡れている。自分のおしっこでも触る気にはならない。
「やだよ、おしっこまみれの変態なんか」
太陽が僕を見る。そのまま、ちんこを扱いていた手を舐める。
「諒君のおしっこの味する」
「気持ち悪い」
僕はちんこをズボンの中に仕舞う。
「ああ、イきそう」
太陽の手が早まる。
「じゃあ、出したらそれを」
僕が言い終わらないうちに、太陽は射精した。その精液を自分の手で受け止める。その手を僕に見せる。そして、手のひらの上に溜まった精液を全部自分で舐め取った。
「こういうことでしょ?」
太陽が僕に言った。その通り、僕が言おうとしたことをそのまま太陽は実行した。

軽くトイレットペーパーで体を拭いて学生服を着る。その太陽の体に少し顔を近づけて(にお)いを嗅いだ。
「おしっこくさっ」
思わず顔を背ける。
「そうかな、諒君の、いい匂いなのに」
太陽も匂いを嗅ぐ。
「そのまま帰るのかよ」
「そうだけど?」
太陽は平気な顔をしている。
「ほんと、変態だな」
「うん」
トイレの個室から出る。外には誰もいなかった。
「ああ、美味しかった」
大きな声で言う。
「また飲ませてね、諒君」
僕を見て笑った。



その日の夜、僕はあの校舎の屋上でキスされそうになったことからおしっこを飲ませたことまで、その経緯を含めて佐伯さんに報告した。
『飲尿か。本格的になってきたね』
そして笑顔の絵文字。
『笑い事じゃないですよ』
『ごめんごめん。でも完全に太陽のペースにはまってるな』
『これから僕、どうしたらいいですか?』
『先生にも見放されたんだろ? だったらとことんやるしかないんじゃないか?』
(いや、とことんってなんだよ)
『どうすればいいんですか?』
『あいつの望むことを、最後までやるんだよ』
『太陽の望むことって』
『君が太陽を壊してやるってことだよ』
(壊すって・・・)
何かが心に引っ掛かった。
(太陽を、壊す・・・僕が)
太陽がそんなことを望んでいるのか。あの太陽が。
『太陽が言っていただろう、壊してくださいって』
そんなことがあった気がする。なんだったっけ・・・そうだ、あの、腕を入れた時だ。
『でも、あれはもう、腕入れたし』
『それであいつが満足すると思うか?』
確かに。太陽は僕の腕よりもっと太い大人の腕とか入れられてたんだ。僕の腕では満足しないだろう。あれよりももっと、太陽を壊さないといけない、ということか。
『どうすればいいですか?』
『一度、俺達と一緒に本格的にあいつを調教してみるか?』
『それってSMプレイ?』
『そうだよ。一度一緒にやってみて、その先は君が自分で考える』
そうか。太陽が満足出来るくらい虐めるには、僕も自分で考えてそういうことを出来るようにならなきゃならないってことか。
『太陽は、君にされるのなら何でも受け入れるだろうから、あまり悩まずにやりたいこと、試したいことをどんどんやればいいよ』
『分かりました。じゃあ、一度一緒にやらせてください』
そうだ。僕は太陽のご主人様なんだ。太陽はもう全てを捨てる覚悟をしている。
僕だって覚悟しないと。そして、何が出来るのか考えないと・・・


      


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